不動産集団規定

私道と通行権と建築基準法の関係まとめ

不動産
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この記事のポイント
  • 建築基準法は公法、民法(通行権)は私法
  • 公法と私法は守るべき相手が違う
  • 建築基準法による道路は「建築できるかどうか」だけを定める

こんにちは、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら

敷地前面道路が私道である際の注意事項についてまとめます。

敷地の前面道路の登記を確認したら地権者が個人だったけど、土地売買と建築にあたってどんな問題があるんだろう?

敷地の前面道路が建築基準法の道路なんだけれども、地権者が個人(または法人)であるとき、どういったトラブルが懸念されるのか。そもそも何が問題なのか整理できてない建築士の方、案外多いですよ。

民法による「相隣関係」が大きく関わるので、建築基準法のみで語るのは難しいですが、関係法令を知識として入れておくだけでも、トラブルのない設計・施工に繋がります。

※そもそも「私道なのに建築基準法の道路であることがある」ということが理解できない方は↓の記事をご参照ください。

公法と私法の違い

まずは、「建築基準法=公法」「民法=私法」であり、守るべき相手が異なることを理解しましょう。

ざっくり説明すると、、

  • 公法は、国や地方公共団体が権力により一方的に形成する権利義務関係なので、行政処分等の対象である。(刑務所に入ったり、罰金を払ったり…)
  • 私法は、社会生活上必然的に生ずる私人間相互の関係を規律する法であり、民事不介入の観点から特定行政庁等の行政機関は関与しない。(民事調停、裁判…示談金や賠償金…)

建築基準法は「公法」

公法とは国家と私人との関係を規律する、国家や公益に関係する法です。その他、国や地方公共団体を規律する行政法は公法ですし、憲法も公法にあたります。

そして建築基準法は、公権力による建築規制を手段として公共の福祉の増進に資することを目的とした、公法です。エンドユーザーと直接やり取りしながら運用しているのは各特定行政庁。

よく役所窓口で「違反したらどうなるの?」と質問されている方を見ますが、建築基準法の中に罰則規定が定められています(懲役○○年、罰金○○万円)し、行政手続法に基づく命令等の「行政処分」が下される可能性もあります。これらを執行するかどうかは特定行政庁の判断に委ねられます。

と言いながらも、社会への影響が大きかったり、よほど悪質性が高くない限り、法律に基づかない行政からのお願いごととしての「行政指導」により解決が図られることがほとんど。

「行政処分」と「行政指導」の違いについては下記の記事で少し触れています。

ここで理解すべきは、建築基準法に基づく違法性をジャッジしたり、処分を下す主体は行政機関(特定行政庁や建築審査会)であるということ。民ー民のトラブルに役所が介入しないように、基本的に建築基準法はじめ公権力による一方的関係は私法規定の適用が排除されます。

民法は「私法」

私法は「私人と私人との法律関係」を規律する法です。つまり、民法のような社会生活上必然的に生ずる私人間相互の関係を規律する法です。

そして、民法の中に「相隣関係」という言葉があります。土地や建築の話でよく登場します。

相隣関係とは「隣接する不動産の所有者間において、通行・流水・排水・境界などの問題に関して相互の土地利用を円滑にするために、各自の不動産の機能を制限し調整し合う関係」のこと。

相隣問題については、行政が指導・介入しない(できない)ため、当事者間で話し合って解決することになります。不幸にして折合いがつかない場合は、民事調停か裁判によって解決することになります。民事不介入というやつですね。

「役所が全然動いてくれない」「役所は動くのが遅い」とボヤく市民がいらっしゃいますが、建築については明らかな違法性がない限り指導できないんです。「迷惑している」とか「危険だと”思う”ので嫌だ」などの感情論に任せるならそれこそ民事です。

「相隣関係」に係る民法の条項を表にしておきます。

項          目
(民法〇条)
説      明
隣地使用権
(209条)
(1)土地の所有者は、隣との境界やその付近にへい、建物をたてたり、修繕する場合には、隣地の使用を請求できる。
(2)その場合、隣人が損害を受けたときは、賠償請求ができる。
囲にょう地通行権
(210~213条)
(1)袋地の所有者は、公道にでるために他人の土地を通ることができる。ただし、他人の損害の少ない方法をとる。
(2)通行権をもつ者は、通路を設けることができる。その際、通行地の損害に対しては、賠償金を支払う。
(3)土地の分割により、囲にょう地(袋地)となった土地の所有者は、公道にでるため、他人の所有地を通ることができる。この場合、賠償金を支払うことはない。なお、囲にょう地の一部を譲渡した場合も、これを準用する。
自然排水受忍義務
(214・218条)
(1)隣りの土地から自然に流れてくる水は、妨げることはできない。
(2)雨水を、直接隣地に流す屋根や工作物を設けることはできない。
界標設置権
(223~232条)
(1)境界標・へい等の設置や保存の費用は、半分ずつ負担するのが原則である。
(2)費用のかかるへいを好みによって設ける場合は、その超過額費用は自己負担となる。
竹木の切除権
(233条)
(1)竹木の枝が境界線を超えるときは、竹木の所有者にその枝の切除を請求できる。
(2)竹木の根が境界線を超えるときは、相隣者はその根を切りとることができる。
距離保存義務
(234・237条)
(1)建物を建てるときは境界から50センチメートル以上離すこと。ただし、建築基準法第65条の耐火構造による外壁の境界線に接することができる規定がある。
※距離保存規定はあくまでも民法上の規定であり、建築基準法上は特に規定されていません。
(2)上記の規定に反して、建築しようとしたときは、その建築の廃止や変更を求めることができる。
(3)井戸等を掘る場合は、境界線から2メートル以上、また、池等を掘る場合は、1メートル以上の距離が必要である。
眺めに対する制限
(235条)
境界線から1メートル未満の距離(窓から直角に計る)に、隣人の宅地を見られる窓や縁側を設ける場合は、目かくしを設置する。

私道と建築基準法の関係

前置きが長くなりましたが、私道と建築基準法の関係に触れていきます。

私道かつ建築基準法の道路ってどういうこと?

地権者が個人または法人でありがながら、建築基準法の道路となる主なパターンは以下の3つ。

① 法42条1項1号道路
稀にですが、登記上の地権者が個人であるにも関わらず道路法による認定がされている幅員4m以上の道路があります。未登記(寄付や買収がされたにも関わらず登記していない)の可能性もありますが…。そうなると、登記上個人所有の1号道路となります。
このケースに関しては、道路法により第三者の通行権が担保されていますので、あまり気にしなくても良いです。

② 法42条1項5号道路(位置指定道路⇒詳細はコチラの記事へ
位置指定道路を築造後、多くは自治体へ寄付・帰属されることで1号道路になります。が、何らかの理由により個人所有のままとなってるものもあります。
ほとんどのトラブルはこのケースです。

③ 法42条2項道路(2項道路⇒詳細はコチラの記事へ
第3章の規定が適用されたとき(基準時)に幅員1.8m以上で立並びがあり、通行の用に供されていた道は特定行政庁により2項道路に指定されます。この判断に土地の権利は関係ありませんので、地権者が個人であるにも関わらず指定されることは、まぁまぁあります。
2項道路は古くから道として利用されていたことが前提の道路なので、案外トラブルになりにくいです。

「建築基準法による道路」であることの意味

さて、「建築基準法の道路」であることの意味(効力)は以下の2点のみです。それ以上でも、それ以下でもありません。

  1. 法第43条の接道がとれる
  2. 法第44条により道路内の建築が制限される

位置指定道路などの指定道路については行政機関(特定行政庁)がわざわざ指定しているものなので誤解が生まれやすいのですが、特に以下の点はしっかり理解しておきましょう。

  1. 接道する敷地で建築を可能にするための行政処分に過ぎない
  2. 通行地役権などの私法上の権利を発生・強化する効力は持たない
  3. あくまで権利関係は民法上の相隣関係の規定に委ねられる

つまり、道路位置指定を受けた土地の所有者が所有権を行使するにあたり、道路内に建築したり、道路の変更・廃止を制限されることによって(法44条・45条)、たまたま第三者もその私道を通行するのに障害がなくなるだけであり、これは第三者が受ける公法上の反射的利益にすぎません。

極端なことを言うと、道路の土地所有者にバリケード置かれて「通行料払え!」と言われたり、プランター置かれて嫌がらせ受けたとしても、残念ながら建築基準法上は即違反とはなりません。

バリケードやプランターは「建築物」ではありませんからねぇ?塀や門扉のような「建築物」であれば法44条により規制されます。

 権利関係は民法に委ねられる

繰り返しますが、地権者が個人または法人である道路(というか土地)に関する権利関係は、民法上の相隣関係の規定に委ねられます。

そのとき、私道に接道する建築主が気になるのは、「通行する権利」「道路の維持保全」についてだと思います。

通行する権利について

究極を言えば、「通行していいですよね?」「かまいませんよ。」といったような口約束も方法の一つとして考えられますが、法律による対応を行うとすれば通行地役権の設定契約などが考えられます。

通行地役権は登記することができますし、法律上は無償の地役権とすることも可能です。

一方で、「通るな」と言われても、当該道路を通らないと公道に出られない場合には通行の自由権の行使も考えられますが、やはり相応の金銭を負担する必要もあるでしょう。

いずれにせよ、地権者との何らかの合意は要しますし、地権者が所在不明になっていたり法人が解散している場合などのケースも考えられます。私道から接道を取ることにメリットは無いですね…。

道路の維持管理について

その他、道路が壊れた場合に修繕を行うのは地権者か使用者共同で行う必要があります。自治体が直してくれるわけではないので、これまた道路の利用者に費用負担が発生する可能性があります。

不動産を売買する際の重要事項説明では、「私道に関する負担等に関する事項」において、対象不動産と関連する私道について買主が何らかの負担をする場合や利用制限を受ける場合に、その内容を明らかにして説明しなければなりません。

道路トラブルの参考書

私道のトラブルで私が良く参考にしているのが以下の2冊です。どちらも問答形式でまとめられているので、たいていの「困った」ケースにあてはめることができます。相談を受ける側としては、解決方法やその根拠、判例を知っておくことが重要になるのでおすすめです。

まとめ

接道する道路が「私道」と言われるとギョッとしますが、おおまかには以下のとおり理解したうえで、対処していきましょう。

  • 建築基準法の道路は、あくまで「建築できるかどうか」のみに影響する。
  • 建築基準法に違反すると、行政指導や罰則がある。
  • 相隣関係や権利関係は、民法に基づく。
  • 民法に違反すると、トラブルの原因となり、民事調停や裁判になりかねない。

つまり、建築できるかどうかの相談は特定行政庁へ行けば良いですし、通行権やその他民民トラブルの相談については、道路の地権者と直接話し合うか司法書士や弁護士へ相談しましょう。

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