用語と手続き道路関係規定

セットバックは私権の侵害?2項道路を理解して説明能力をアップ

用語と手続き
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この記事のポイント
  1. 「2項道路」の規定は誰のため?何のため?
  2. 道路後退って財産権の侵害じゃないの?

今回は、建築基準法のマニュアル本や参考書には載っていない、2項道路の成り立ちや権利関係についてまとめてみたいと思います。これさえ理解しておけば重要事項説明や配置計画の説得力アップ間違いなし!

あなたは、施主や地主からなぜセットバックなんかしなきゃいけないか問い詰められたらプロとしてどう答えますか?

大切な土地なのに、何でセットバックしなきゃいけないの!?

法律で決まってるんで…しょうがないんです。

案外、一級建築士や不動産取引のプロの方でもこの程度の認識と知識しかない場合が意外と見受けられますが、そのままではめちゃくちゃ危険ですし、この説明じゃお施主さんも腑に落ちないでしょう。

「土地」というのは貴重な個人の資産ですから、道路後退に納得しない施主地主は結構います。建築のプロとしては財産権の侵害vs公共の福祉から語り、狭あい道路事業の活用で着地点を探る力が欲しいところ。

これを機に、お勉強しておきましょう。

※建築基準法の道路の定義に関する記事については下記のリンク先を参照ください。

2項道路の成り立ち

そもそも2項道路って誰が、何のために運用しているか、基本的なことをおさえましょう。

いったい 誰が 何の権限で

2項道路は、特定行政庁がある一定の要件を路線ごとに調査して指定している指定道路です。そう、特定行政庁が能動的に「指定」しています。

逆に、指定されてない(指定できない)幅員4m以下の道路は全て、建築基準法上の道路ではない、いわゆる「通路」にあたります。つまり、現地調査で、幅員4m未満だからと言って、すぐさま2項道路⇒要セットバックと判断するのは危険です。

また、一定の要件とは以下のとおり。

  1. 基準時から道形状が存在すること
  2. 基準時から立並びがあること
  3. 基準時から幅員1.8m以上4.0m未満であること

指定道路:建築基準法の規定により特定行政庁が指定した道路。1項4号道路、1項5号道路(位置指定道路)、2項道路及び3項道路が指定道路に該当します。

基準時:建築基準法施行日(昭和25年)または当該道路が都市計画区域に指定された日

ちょっと一言

特定行政庁は、基準時付近の航空写真、官有地台帳、昔の地積測量図などの確からしい情報を集めて、要件を満たす路線については基本的に2項道路として指定しますが、誰もその路線から接道をとる必要が無い場合など、その指定によってむやみに私権を制限するような場合は、あえて指定しないという運用をしているのが実際のところだと思います。

さて、繰り返しますが、この法第42条2項の規定に基づく道の指定は、その対象となる土地の所有者その他の利害関係人の意思にかかわりなく、特定行政庁がその職権により公権力をもつて一方的に行うものです。

その結果、個人の財産権に一定の内容の制約(セットバック)を加えるという効果を生ずるのですから、特定行政庁がこれを行うには、そのようにするに足りる公益上の必要性が存在しなければなりません。

この公益上の必要性が下記の「何のため」にあたります。

何のため にやってるの?

建築基準法上の道路は、原則は法第42条1項に定めるもの、つまり幅員4m以上を有する道路しか認めていません。

この幅員4mという数字。道路が単に通行の用だけでなく、災害時の避難路、消防活動の場、日照・採光・通風の確保など良好な環境の市街地を形成する上で重要な機能を担保するための最低限の基準と考えてください。

そのうえで、法第42条2項の規定は、基準時すでに立並びを有しながら存在していた幅員4m未満の道路を対象にセットバックを課し、将来的に幅員4mの空間を確保できるよう土地の”使用権”を一部制限することで建築基準法上の道路と”みなす”、という経過的(救済)措置として定められたものです。

昔からある狭い道沿いの敷地たちが、道路中心から2mの範囲を「建築基準法上の道路」とみなされ「その部分には建築できない(法第44条)」という制限を受け続けることで、ゆくゆくは路線として幅員4mの通行可能な空間を得られるようにし、上記した「最低限の基準」を満たそうというわけですね。

画像1
出典:三重県東員町のホームページより

敷地のセットバックは財産権の侵害?

上記のとおり、2項道路の規定は、基準時すでに存在する道を対象とした経過的措置として定められたものですから、この措置は原則として、特定行政庁が一方的に・能動的に行う性質のものです。

したがって、この規定は用途地域等の指定によって生ずる制限に準ずる集団規定の一種とみなされ、所有権の制限はないが使用権の制限のみが生ずるものであるから、私権の侵害になるとは解されないとされています。

また、この規定に基づく指定により、道路とみなされる私有地は特定行政庁の指定処分により使用権を制限されますが、これは公共の福祉の要請に基づく制約すなわち財産権に内在する制約であって補償の対象とはなりません。

これが法律の基本スタンスです。国交省の建築基準法道路関係規定運用指針にもこの辺りが触れられています。

ちょっと一言

道路後退部分を公共の道路として担保するために、多くの自治体が狭あい道路整備事業でカバーしようとしています。

行政も鬼ではありません。個人に使用権を制限された土地の管理を求め、しかも固定資産税を払わせしていたのでは、市民の前向きな協力も得られませんから、狭あい道路(主に2項道路)について、自治体に帰属などすることで、報償金が得られたり、道路としての整備や分筆登記にかかる費用などの補助を行っています。

まずは、事業を運用しているか自治体に確認しましょう。

結局セットバックは他の集団規定と同じと考える

土地は個人の財産ですから、特定行政庁の一方的な指定により、敷地の後退が必要となると納得できない方がいらっしゃるのは理解できますが、前述のとおり法律のスタンスは「私権の侵害はしていない」という立場です。

しかし考えてみれば、道路斜線等の高さ制限だって一方的に定められた規定により土地の空中権(地役権)に一定の制限を加えるものですよね。用途地域による建築の用途や建ぺい・容積率の上限、日影規制などの集団規定も何かしらの個人の権利に一定の制限を加えています。

つまり、道路後退線は鉛直方向に発生する絶対高さ制限的なものとして、他の集団規定と同じ次元で語って支障ないと私は思っています。

ちなみに、壁面線(法第47条)も規制内容は似ていますが、こちらは建築審査会の同意や利害関係者の意見聴取が必要な点で行政の一方的な決定によるとは言いづらいですよね。また、外壁後退(法第54条)についても、都市計画決定されることが条件で同じことが言えるため、やはり権利関係については2項道路による道路後退線と性質が異なります。

「見えない道路 建築基準法 二項道路」というマニアックな本もあります。もう行政の担当者しか読まないんじゃないかと思うような内容なんですが、興味がある方には是非とも呼んでいただきたいです。

まとめ

今回の記事の要点は以下のとおり。

  1. 「2項道路」は、行政が安全で衛生的な市街地形成の為に、職権により指定している。
  2. 道路後退は、公共の福祉の要請に基づく制約であり、私権の侵害とはならない。

さて。ここまでの知識で、客先から「何でセットバックしなきゃいけないんだ!」と責められたときに、「法律で決まっているんで…」よりも詳しい説明ができそうな気がしませんか。重要事項説明や配置計画時に土地所有者や建築主がスッと納得する道路後退の説明をしていきたいものです。

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