お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら)
今回は、建築基準法による「地域」や「地区」に関する規制が2つの地域にわたる場合の考え方をまとめます。
「地域」による規制は用途地域ごとの面積や高さに関する規制や、法22条区域・防火地域のような耐火防火に関する規制など、都市計画区域内では無視できない規定も多く、また、その境目で建築計画をすることも珍しくはありません。
実務的には、敷地調査の際に地域をまたぐことが発覚した時点で調べれば良いことなんですが、全体像を把握しておくだけでもリスク回避につながるため、これを機に俯瞰して見ておきましょう。
大原則は「過半の属する地域」の規定を適用
2つの地域にわたる場合の大原則の考え方は法第91条に示されています。その中に、「過半の属する区域、地域又は地区…の規定を適用する。」とあります。なるほど。
ただし、カッコ書きの(…を除く。)もたくさんあり、例外かなりあるなという印象ですが、逆にカッコ書きに羅列された条項を例外リストとして活用しちゃいましょう。
建築基準法第91条(建築物の敷地が区域、地域又は地区の内外にわたる場合の措置)
建築物の敷地がこの法律の規定(第52条、第53条、第54条から第56条の2まで、第57条の2、第57条の3、第67条第1項及び第2項並びに別表第三の規定を除く。以下この条において同じ。)による建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する禁止又は制限を受ける区域(第22条第1項の市街地の区域を除く。以下この条において同じ。)、地域(防火地域及び準防火地域を除く。以下この条において同じ。)又は地区(高度地区を除く。以下この条において同じ。)の内外にわたる場合においては、その建築物又はその敷地の全部について敷地の過半の属する区域、地域又は地区内の建築物に関するこの法律の規定又はこの法律に基づく命令の規定を適用する。
俯瞰するため、代表的な原則の例と、その例外を表にしてみます。
条項 | 項目 | 考え方 | 根拠条項 |
法28条 | 採光 | 敷地の過半の属する区域・地域・地区の規制を適用 | 法91条 (原則) |
法48条 | 用途地域(用途制限) | ||
法53条の2 | 敷地面積の最低限度 | ||
法22条 | 屋根の不燃 | 建築物全体に適用 | 法24条 |
法52条 | 容積率 | 敷地面積の加重平均で適用(面積按分) | 法52条 |
法53条 | 建ぺい率 | 法53条 | |
法53条 | 建ぺい率(防火地域の内外) | 敷地全体に適用 | 法53条 |
法54条 | 外壁の後退距離 | 都市計画に決定による | 法54条 |
法55条 | 絶対高さ | 建築物の部分で適用 | 法55条 |
法56条 | 道路斜線 | 法別表第3備考 | |
隣地斜線 | 法56条 | ||
北側斜線 | |||
法56条の2 | 日影規制 | 影を落とす地域の規制を適用 | 法56条の2 令135条の13 |
法57条の2 | 特例容積率適用地区内の容積率 | 都市計画の決定による | 法57条の2 |
法58条 | 高度地区 | 特定行政庁の指定による | 法58条 |
法61条 | 防火地域 | 建築物全体に適用(防火壁で区画されている場合を除く) | 法65条 |
準防火地域 | |||
法67条 | 特定防災街区整備地区 | 法67条 |
こうして見ると、原則は「過半」を適用すると言ったものの、実は例外の方が多いのです…。よって、地域や地区をまたぐ敷地で設計を行う場合は、規制ごとに考え方をチェックした方が良いという結論になってしまいました。
しかし、「根拠条項」を見れば分かるとおり、ほぼ全ての規定で同じ条文の中かその直後の条文に「〇〇地域の内外にわたる場合の措置」が記載されているため、法文をしっかり読めば不意打ちされることは無いはずです。
敷地が2つの市町村にわたる場合
珍しいですが、敷地が2つの自治体(特定行政庁)にわたる場合も想定されます。ご存じのとおり、建築基準法のあらゆる取扱いは特定行政庁によって判断が変わるため、色々と迷いますよね。
昭和29年6月25日住指受754号「敷地が両市に亘る場合の申請」にその答えがあります。
要約すると以下のとおり。
- 建築物の敷地が2つの特定行政庁にわたる場合は、法91条の規定にならい建築物又はその敷地の全部について敷地の過半の属する特定行政庁において一括取扱う。
- 道路の位置の指定が2つの特定行政庁にわたる場合は、行政界で区画してそれぞれ指定し両行政庁が同時に公告する。
建築基準法上の道路種別はそれぞれの特定行政庁に聞かないといけないし、行政界の位置が微妙で過半の判断が難しいときなど、色々と面倒くさそうですね…。
なお、この取扱いには「両市に亘る諸申請の取扱については重複することのないよう予め両市において協議して、その取扱方針を定めておくべきであるが…」との前置きがあるため、計画前に2つの行政庁それぞれに相談しておくのがベストです。
本記事のような「こういう場合はどうなの?」系のことは参考書を読むのが手っ取り早いです。↓の書籍は建築基準法のよくある間違いを事例として取り上げ、ポイントごとに解説していて読みやすかったです。
まとめ
「地域」や「地区」に関する規制が2つの地域にわたる場合の考え方をまとめました。
- 大原則は法91条により、過半が属する地域の規制を適用する
- ただし、例外の方が多いので規定ごとに「どの辺に根拠があるか」は覚えておいた方が良い
- 敷地が2つの特定行政庁にわたる場合は、それぞれに相談しておくのがベスト
何かの境目を配置図に明示する際には、責任回避の意味でも特定行政庁に相談して回答をもらっておくのが良いです。間違っても行政界や都市計画決定・特定行政庁指定によるものの境目を自分で判断してはいけません。