用語と手続き

違反建築物?遡及適用?既存不適格を条文から理解する

用語と手続き
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この記事のポイント
  1. 既存不適格の根拠条文と理解のしかた
  2. 既存不適格建築物の増改築などの考え方

既存不適格建築物っていう言葉、建築法規の初心者には何となくとっつきにくい雰囲気が漂いますよね。

恐らく、「増改築時に確認申請がややこしくなる」とか「違反建築物なんじゃないの?」とかマイナスのイメージが先行して、理解することそのものが後ろ向きな感じかするからだと思います。

しかし、近年はリノベーションという言葉が一般的になり、既存ストックの活用について行政からのバックアップも盛んに行われている中、建築士としては既設建築物の法適合状況について適切に判断して無駄のない改修計画を立てるスキルが求められることも増えてきました。

この記事は、既存不適格の根拠条文をおさえることで、その先を理解するための基礎みたいなものだと捉えてください。ココを固めないままに、実務に入ると混乱必至ですから、しっかりとお勉強しておきましょう。

既存不適格建築物のイメージ

「階段に手すり無いけど…?」とか「廊下の有効幅とれてなさそうだけど…?」といった具合に、パッと見て法規的に違和感を覚えることはありますよね。(ないですか?笑)

そんな具合に、どう考えても法的にアウトな部分を有する建築物でも、その建築物がいつ建てられたか(建築確認処分を受けたか)によって法上の取扱いが変わってきます。

例えば、手すりについて。仮に平成12年6月(※基準時)より前の建築だった場合、当時の建築基準法としては側壁等があれば手すり無しでも適合だったのですが、その後の法改正でたまたま不適合になってしまっただけなので、既存不適格(の部分がある)建築物として取扱います。

※改正された法が適用されるタイミングのことを「基準時」といいます。例えば、「手すりが必ず必要(施行令25条)」という規定に関しての基準時は平成12年6月です。

それに対して、廊下の有効幅が取れていないのは恐らく建築確認不要の工事によって間仕切りの位置が変更されたとか、設備関係の増設などによるものが常ですので、違反(の部分がある)建築物である可能性が高いです。(あくまでイメージの話です。)

もちろん、法律が改正されたせいでたまたま不適格になってしまったものは、建築主のせいではありませんから、「既存不適格建築物」として現行法に適合されていなくても許されています。

それじゃ、今までの法改正の内容とその基準時を全て把握してないと、既存不適格かどうかのジャッジができないってこと?

残念ながら、その通りです。

上記「(の部分がある)」と書いたように、法改正ごとに基準時があるわけですから、規定の対象となる建築物の部位ごとに既存不適格or違反のジャッジができないと、正直言って古い建物の改修設計や定期報告をするのは難しいです。

これが、建築法規の初心者にはとっつきにくくなる原因のひとつです。昔から実務に携わっている設計者なら、大きな法改正を経験してある程度気を付けるポイントを押さえていると思いますが…。

既存不適格の増改築そもそも論

私が一級建築士の資格を取りたての頃は、既存不適格建築物って何と聞かれたら以下のように答えていました。

既存の建物が法改正によって、現行法的には不適合になってしまったけど、特に違法ではないから大丈夫。増築するなら一部の現行法に対して遡及適用される…?

なかなか危険な説明をしていますね。しかし、同じような感覚の方がなんと多いことか。ピンとこない方は、まず既存不適格の定義とその取扱いの根拠をおさえておきましょう。

まずは、法文を引用します。

第3条
1 (略)
2 この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地これらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
3 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、適用しない。
一 (略)
二 (略)
 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地
 前号に該当する建築物又はその敷地の部分
五 (略)

建築基準法 第3条

余談ですが、法文っていうのは「…は、次の各号に…の場合適用しない(ただし○○を除く)」ことを適用しない(ただし△△を除く)のように、まさに数Ⅰの集合で使うベン図を手書きしながらじゃないと理解できない難解さですが、基本的には、「原則」があってそれに対する「緩和」で構成されていることを意識すると読みやすいです。

さて、そこで改めて法3条を読み解いて日本語にしますと、

2項では、ある建築物が法改正が理由で不適合になっても、既存不適格建築物として存在し続けることを認めるといった内容です。それを受けて、3項の三号&四号では、その建築物が増改築などの工事をする場合については2項の規定は適用しない、と言っています。

つまり「原則」は、全ての建築物(とその敷地内全て)は工事をするごとに現行法に適合するようにアップデートしていかなければならない。と読み取れます。

これって施主からすると鬼畜の所業に感じられますが、建築基準法も鬼ではありません。既存不適格建築物に対しては、一部の規定についてのみ「緩和」が用意されています。
みんな大好き施行令第86条の7です。

既存の建築物に対する制限の緩和
施行令第86条の7
第3条第2項(第86条の9第1項において準用する場合を含む。以下この条、次条及び第87条において同じ。)の規定により 第20条、第26条、第27条、第28条の2(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。)、第30条、第34条第2項、第47条、第48条第1項から第13項まで、第51条、第52条第1項、第2項若しくは第7項、第53条第1項若しくは第2項、第54条第1項、第55条第1項、第56条第1項、第56条の2第1項、第57条の4第1項、第57条の5第1項、第58条、第59条第1項若しくは第2項、第60条第1項若しくは第2項、第60条の2第1項若しくは第2項、第60条の3第1項若しくは第2項、第61条、第62条第1項、第67条の2第1項若しくは第5項から第7項まで又は第68条第1項若しくは第2項 の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替(以下この条及び次条において「増築等」という。)をする場合においては、第3条第3項第三号及び第四号の規定にかかわらず、これらの規定は、適用しない。
(以下省略)

建築基準法施行令 第86条の7

法3条3項三号&四号の内容は『全ての建築物は工事ごとに現行法に適合するようにアップデートしていかなければならない。』でしたが、それに対して、政令で定める範囲内の増改築であれば86条の7に羅列された規定については適合しなくても良いということです。

もうお分かりですね。

既存不適格建築物の増改築にあたって、既設部分については「一部の現行法に対して遡及適用される」ではなく、「原則は全遡及だけど、一部の現行法については遡及適用が緩和される」がただしい理解というわけです。

その頭で令86条の7を読み解くと、頭に入りやすいです。

既存不適格の増改築の考え方 具体例

では、既存不適格建築物の具体例を考えてみます。

30年前(線引き前)に新築された、延床面積1,500㎡、鉄骨2階建ての工場。その後の都市計画の変更で敷地の用途地域が第1種中高層住居専用地域になってしまったが、この工場を事業拡大に伴い増築したい。(検査済証あり)

まず、用途がアウトになってしまっていることはすぐに分かりますね。3条2項の規定により、用途地域の制限(48条)の適用を受けていない既存不適格建築物となります。

これを増築する場合は、原則は用途変更して48条へ適合させることを求められますが、施主の要望通り、86条の7の緩和規定を利用して既設の建築物はそのまま利用しつつ増築する計画としたいと思います。

ただし、86条の7の緩和を利用する場合は法文にあるとおり「政令で定められる範囲内の増築」しか認められないため、まずは政令を確認します。今回は用途地域関係の緩和を利用しますので、令137条の7に該当。

令137条の7により、基準時と同じ敷地設定において容積・建蔽率を守りつつ、増床面積は1.2倍(300㎡)まで、さらに原動機の出力や台数も1.2倍までに抑える計画としなければならない旨を施主に説明し、ダメなら別敷地での新築など、方向転換を検討する必要が出てきます。

また、用途地域の変更に伴い容積・建蔽率が変更になっている場合、日影制限などの高さ関係規定も既存不適格となっていないか同様にチェックしておいた方が良いでしょう。

次に、建築当時と現行法規では、構造計算について確認申請時に求められる要件が異なっていますので、用途の制限に加えて構造関係規定(法第20条)の要件でも既存不適格建築物となります。原則は既設部分も現行法が適用されますが、政令で定める(令137条の2)に定める範囲内の増改築であればもちろん遡及適用されません。

だたし、令第137条の2第1号ロ(及びH17国交告566号21号ハ)の規定に基づき、増築部分と既設部分をEXP.Jで接合する場合、 既設部分については地震に対する安全性の確認を耐震診断基準に適合することにより行うこととする一方で、地震以外の安全性の確認は構造計算によることが求められているため、注意が必要です。

なお、まれに議論になりますが、増築部分の法20条への適用床面積については、平成27年に法20条2項が改正されたことにより、EXP.Jにより構造的に分離された場合には増築部分のみの床面積のみで判定するので、増築部分が200㎡未満であれば法6条1項4号の建築物に該当するため構造計算は不要として運用している特定行政庁がほとんどではないでしょうか。

上記のように、古い建築物の増改築というのはなかなか初心者では難しいものがあるかもしれませんね。私も、現行法を理解するだけで精一杯なのに、法改正の変遷なんて知らん!という感じです。

しかも、上記の条件は検査済証があった場合の話で、もし完了検査を受けていない建築物であれば法12条の報告から入って、既設建築物の適合状況を調査・報告するところから始まります…。民間の指定確認検査機関では受付さえしてもらえないかも知れません。

既存不適格の増改築、社会的ニーズはあるものの、なかなか設計者泣かせです。

既存不適ではなく、違反建築物の増改築は…

違反建築物は、無確認の増築や改修、もしくは確認申請の必要がない増改築の規模の工事をした場合により生まれます。これは施主の認識不足や、建築士の説明不足が元凶でしょうが、意図的にやっているなら救いようがありません。

建築基準法においても、違反建築物への救済措置はありません。そのまま確認申請を出しても、受付さえしてもらえないでしょう。

どうしても工事を行いたいなら、基本的には、法第12条による報告を特定行政庁へ提出し、もし適合を証明できたらそのまま確認申請へ。不適合であることが判明したら、是正工事を確認申請に含めるか、是正工事を行ってから確認申請の流れになります。

ただし、壁の中や基礎の断面を現地で確認することは難しいですから、確認済証(検査済証)付きの設計図などがなければ、適合か不適合かを証明すること自体が難しく、さらに、違法建築物に係る一般的な手続き関係規定はありませんので所管の特定行政庁と一つ一つ協議をしながら事を進める必要があり、かなりの時間を要することは覚悟しなければなりません。

まとめ

今回は、既存不適格という言葉の根拠条文から、用語を理解する趣旨でまとめました。

  1. 原則、不適格部分のある建築物は全て、増改築時に現行法に適合させる必要アリ
  2. ただし、政令で定める範囲内の工事であれば、一部の規定については遡及適用されない
  3. 遡及適用を免れたいなら、政令で定める範囲内の工事を理解することが足がかりとなる
  4. 違反建築物の増改築の救済措置はない

既存ストックの利活用は、社会的ニーズが高まっています。計画を行う建築士だけでなく、利活用の見通しを立てる不動産コンサルもこのあたりの知識は必須となってくるのではないでしょうか。

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