単体規定用語と手続き

【独立部分とは】既存不適格の遡及緩和を利用して合理的な設計を【増築・用途変更】

単体規定
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この記事のポイント
  • 法遡及の範囲を限定する緩和が2つある(既存不適格)
  • 「独立部分のみ」と「増築部分のみ」の2種類
  • 中規模以上の改修工事では、必須の知識!

お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら

今回は、既存不適格建築物の増築・用途変更をする際に必要な「独立部分等」について少し掘り下げます。

建築基準法は、建築時に適法であった建築物がその後の法改正等で不適合状態になってしまった場合でも、そのままの状態でいることを許しています。(法3条2項)

これにより、古い既存建築物は「法適合部分」と「既存不適格部分」の2つで構成されることになるのですが、これを増改築・大規模修繕などをする度に建築物全体が現行法にアップグレードされるのが原則なのです。(法3条3項)

工事をするごとに既存不適格(=不適合でも許されている部分)が解除されます。建築主からすると鬼畜の所業ですね…。

特に大規模な建築物において法3条は厳しい規定なので、少しでも緩和してあげようというのが法第86条の7の規定です。内容をざっくり紹介すると以下のとおり。

法第86条の7(既存の建築物に対する制限の緩和)
第1項:遡及が発生しない小規模な工事とは
第2項:法遡及が独立部分だけでOKとなる規定とその条件
第3項:法遡及が増築部分だけでOKとなる規定とは

第1項の内容については下記のリンクでざっくり解説していますので、今回は第2項第3項の独立部分等について解説していきます。

「独立部分」の解説と注意点(第2項)

「独立部分」とは、一の建築物であっても別の建築物と見なせる部分は法遡及しないでも良いことにしましょうという緩和規定に登場する用語です。法20条(構造規定)と第35条(避難規定)に関してのみ適用される規定ですが、この2つについては影響が大きいです。

法第86条の7 第2項
 第3条第2項の規定により第20条又は第35条(同条の技術的基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。以下この項及び第87条第4項において同じ。)の規定の適用を受けない建築物であつて、第20条又は第35条に規定する基準の適用上一の建築物であつても別の建築物とみなすことができる部分として政令で定める部分(以下この項において「独立部分」という。)が2以上あるものについて増築等をする場合においては、第3条第3項第三号及び第四号の規定にかかわらず、当該増築等をする独立部分以外の独立部分に対しては、これらの規定は、適用しない。

上図のイメージが全てです。既存不適格建築物が政令で定める方法で分けられている場合、増築等により影響がない方の部分(A)については、法20条もしくは法35条について遡及なしでOK。なお、独立部分が成立するするための条件は条文ごとに定められており、施行令137条の14に規定されています。

施行令137条の14の要約(独立部分が成立する条件)
法20条:EXP.Jその他相互に応力を伝えない構造方法のみで接している
・法35条(排煙以外):開口部のない耐火構造の床壁で区画 又は 大臣認定
・法35条(排煙のみ):開口部のない準耐火構造の床壁で区画 又は 大臣認定

注意すべきは、法86条の7第2項の条文に「独立部分が2以上あるものについて増築しようとする場合」とあるのは「既存建築物内に独立部分が2以上ある」という意味です。増築部分と既設部分を構造的に切り離したり、区画するといった意味ではありません。

「既存部分と増築部分をEXP.Jで分離すれば、既存部分には遡及されない」と考えてしまう方がいますが、残念ながらそうではありません。

そもそも独立部分(B)を含む既存部分への法20条の遡及を免れたい場合には、第1項の「遡及が発生しない小規模な工事」を検討する必要があります。(具体的には法86条の7第1項⇒施行令137条の2)

増築部分のみへの現行法適用(第3項)

法86条の7第3項に列記されている条文については、増築等を行っても既存部分には遡及がありません。つまり、増築等の工事に係る部分についてのみ現行法が適用されるという、分かりやすい規定です。

法第86条の7 第3項
 第3条第2項の規定により第28条、第28条の2(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。)、第29条から第32条まで、第34条第1項、第35条の3又は第36条(防火壁、防火区画、消火設備及び避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く。)の規定の適用を受けない建築物について増築等をする場合においては、第3条第3項第三号及び第四号の規定にかかわらず、当該増築等をする部分以外の部分に対しては、これらの規定は、適用しない。

列記されている条文は以下のとおり。全て単体規定です。

<増築工事に係る部分のみへ現行法適用となる条文>
法28条居室の採光及び換気
法28条の2第三号化学物質発散材の不使用と24時間換気
法29条地階における住宅等の居室
法30条長屋または共同住宅の住戸の界壁
法31条便所
法32条電気設備
法34条1項一般の昇降機
法35条の3無窓居室等の主要構造部
法36条単体規定を補足するために必要な技術的基準のうち↴
 令21条居室の天井高さ
 令22条居室の床高さ
 令23~27条階段
 令28~35条便所
 令115条煙突
 令5章の4第1節の2給水、排水その他の配管設備
 令5章の4第2節昇降機

繰り返しますが、これらの規定は増築部分が大きいか小さいかに係らず既存部分への遡及はありません。増築部分の現行法適合のみでOK。)なお、増築工事だけではなく改築・大規模の修繕等の工事をする場合も同様です。

法86条の7第3項の適用事例

法28条居室の採光及び換気
既存部分の居室については既存不適格のままで増築ができます。24時間換気も同様。

法34条1項一般の昇降機
増築工事にあたって、既存部分にあるエレベーターは既存不適格が継続できます。

令25条階段手すり
平成12年に義務化された階段への手すり設置が既存不適格となっている建物を増築する時には、既存部分の階段に手すりを付ける必要はありません。増築部分に新しく作る階段には手すりが必要です。

まとめ

遡及の話であれこれ議論になると「基本は現行法に適合なんだから、もう工事しちゃおうよ」とは思うのですが、大規模建築物になるとコスト等の問題でそうも行かないこともありますよね。

既存不適格建築物への法遡及の緩和を検討するとはきは、以下の条項をチェックしてください。

法第86条の7(既存の建築物に対する制限の緩和)
第1項:遡及が発生しない小規模な工事
第2項:法遡及が独立部分だけでOKとなる規定とその条件
第3項:法遡及が増築部分だけでOKとなる規定とは

なお、工事するかどうかは別にして、用途変更をする場合にも既存不適格建築物への遡及はあるので、合わせて↓の記事をご確認ください。

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