お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら)
今回は、工事の「着手」の定義の確認です。
「工事着手の前に確認済証をもらわなきゃダメ。」はコンプライアンス重視の昨今、当たり前となりました。しかし様々な事情により、今すぐににでも着手したいタイトスケジュール案件は建設業界ではよくあるため、設計(確認申請)から現場へのバトンをスムーズに渡したいところ。
現場が確認済証待ち、って設計者からすると辛いですよね。開発関係や別の許認可が絡むと思ったように確認申請が進まなかったりします…。
確認済証の交付前に工事「着手」禁止の根拠
確認申請(確認済証の交付を受ける)前に、工事着手するのは建築基準法における手続き違反となります。根拠は、あの有名な法6条1項にズバリ書いてあります。
法第6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)
建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(後略)
この規定、今や当たり前のことなんですが、設計監理者と工事担当者の調整が上手くいかずに勝手に現場が進んでしまっていたり、コンプラ意識の低い監理者指示のもと土工事を進めさせていたりと、意識低い方がまだまだ散見されます。
引き渡し予定日に追われるのは分かりますが、申請関係が上手くいかないのも現場着手の指示も設計監理者・施工者のせいなんですよ。問題となれば施主にも迷惑がかかります。
着手の定義は書籍にまとめられている
昔から「着手」の定義は議論されており、建設省通知(昭和41年3月17日住指発第83号)をはじめ様々な事例をもとに判断が統一されてきました。「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例 」(編集:日本建築行政会議)におおよその答えが掲載されていますので、紹介します。
共通仮設関係は基本的に着手ではないようです。一方、土を触ると危険な気がしますね…。
さて、いつものことですが、法解釈・運用の最終判断は特定行政庁になるので、迷う場合は質疑という形で判断を任せるのがベターです。特に気を付けた方が良いのが上記した「杭工事」及び「根切工事」。
試験杭については、原則着手とは見なさないと思って良さそうですが、本杭としてそのまま利用する場合には特定行政庁への相談は必須です。
また、根切工事について過去裁判の判例などがググれば出てきますが、多くは客観的に見て建築本体の工事と認識できるかどうかが争点になっています。よって根切工事は、完全な理論武装をしたうえで特庁だけでなく周辺住民を含めた利害関係者への説明が出来ない限り、確認済前の着手は止めた方が良さそうです。
結局、違反の発覚やトラブル発生の原因は近隣住民(プロ市民)の通報がほとんどなんですよね。さされないためには法令順守を特庁ではなく、近隣へアピールするのが得策です。
違反が発覚した場合のペナルティ
役所への通報で多いのが「看板を出さずに工事をしている!(工事を止めさせろ!)」というもの。
私の経験上ですが、看板を出さない施工業者(または監理者)って現場周辺への配慮が欠けていたり、法令順守の姿勢がそもそも無いのですよね。だから通報を受けやすい。
最近では、ネットで色々と調べた上で違反を確信して通報してくる方(いわゆるプロ市民)も多く、特定行政庁もそれを受けて確認申請の有無だけでなく振動・騒音対策を所管する環境部局などと一緒に対処することもしばしばあります。
そこで、当該工事が無確認であることが発覚すると、確認済証が発行されないだけでなく、最悪の場合撤去を命じられる可能性もあります。(法9条、法10条)
特定行政庁には、緊急と認められる場合には法9条10項によって、即時に工事中止の命令をする権限が与えられています。
法9条・法10条による違反建築物や危険な建築物への特定行政庁の対応については↓の記事をご参照ください。
まとめ
建築基準法で定義される工事の着手は、一般的に言う「着手・着工」とはズレもあると思います。設計監理者は特定行政庁及び施工者との打ち合わせ、施工者は近隣住民へのアピール(説明や看板設置などの対策)をしっかりと行い、違反のないスケジューリングをしていきましょう。
基本的な考え方は「基準総則・集団規定の適用事例 」でチェックし、微妙な判断となれば必ず特定行政庁へ協議をしましょう。その場合、現場はプロ市民にさされないための対策を講じるのがデキる監理者・施工者です。