用語と手続き

撤去の必要あり!?既存ブロック塀の法適合性と確認申請上の取扱い

用語と手続き
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この記事のポイント
  1. 既設ブロック塀の法適合性 判断基準
  2. 隣地と共有しているブロック塀に関する法令
  3. ブロック塀を作るだけで確認申請が必要なケース

お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら

CB塀の倒壊による事故が多発する昨今、特定行政庁においても補強コンクリートブロック造に関する法令遵守が厳格化されています。

例えば、設計図に既設ブロック塀の法適合性や安全性を明記しなければ確認済証が下りなかったり、配置図に明記されていないブロック塀があった場合には検査済証が下りなかったり…。

でも実際問題、住宅の建替えであれば、施主としてはコストを考えて既設のブロック塀をそのまま利用したくなるでしょうし、土地の売買時にも境界上のブロック塀なんかは残さざるを得ないことも多いですよね。

そのような状況の中、我々実務者は以下のようなケースにどうやって完了検査まで乗り切るか頭を抱えるわけです…。

  • 不適合のブロック塀をそのまま利用したい
  • 基礎の根入れ深さや配筋の状況が分からない
  • ブロック塀が隣地との共有物だが、色々と問題があり改修できない
  • 擁壁の上にあるブロック塀の安全性が判断できない

今回の記事ではその辺りに触れながら、建築確認上のブロック塀の取扱いについてまとめてみます。

既設ブロック塀の法適合を確認する

確認申請前に、必ず既存ブロック塀の法適合状況を整理する必要があります。

まずは、建築確認の建前について整理

建築確認という行為は「設計者が建築基準法に適合している建築物の図書を作成する。」そして、「特定行政庁や指定確認検査機関はその図書が建築基準法に適合していることを確認する。」ただそれだけの行為です。

5,000㎡の病院でも、150㎡の住宅でも、ちょっとしたブロック塀でも、同じです。
あくまで設計者が主体となり法を遵守することが大前提で、それを確認するだけです。

ですから、敷地内に既設のブロック塀がある場合には、法適合を確認するか、法適合させる計画を立てる以外に道はありません。あとは、その根拠をどこに求めるかを考えるのです。

どのように法適合を主張する?

ひとたび完成した建築物は隠蔽部が多く、下地や配筋を非破壊で確認するのは容易ではありません。

ただ、特定行政庁や審査機関の本音からすると「何かしらの検査でもして法適合を確認してから図書を作成すべきだし、適合できないなら解体したら?」と、言いたいところですが…。

現実問題は、超音波でもX線でもそれなりの時間と費用がかかり、申請者の負担としてはあまりにも重たいため、目視で分かる範囲内で仕様規定(施行令62条の8)への適合を確認できればOKとしている特定行政庁が多いと思います。“多いと思う”というのは、当然、特定行政庁によって取扱いに差があるということです。

下のリンクは山形県の既設CB塀の取扱いの事例です。
山形県建築住宅課「確認申請におけるブロック塀等の取扱いについて」

法令では補強コンクリートブロック造に関する規定は、施行令62条の8に全て定められていますので、その全てに適合していることが証明できれば文句なしでOKなのですが、やはり鉄筋の状況や基礎の形状を調べるのは容易ではありませんから、山形県でも以下のような取扱いをしているようです。

2 適合状況の確認
ブロック塀等が法令の規定に適合していることが確認できる資料を添付してください。(既存・新設共。ただし、撤去するものを除く。)資料へ記載する内容は下記のとおり。
・高さ、壁の厚さ、鉄筋の状況、基礎の状況、控壁の状況、建築時期、劣化状況(安全性)
※鉄筋の径や基礎の形状、配筋状況が不明の場合は、鉄筋の有無、基礎の根入深さのみでも可とする
・仕様規定に適合しない場合は、構造計算書

秋田県建築住宅課「確認申請におけるブロック塀等の取扱いについて」

まとめると、施行令62条の8の各号について、現地で以下のことを確認する、もしくは改善計画を図面に明記すれば法適合OKと主張しても良さそうですね。

1号高さ2.2m以下であること
2号厚さ150mm以上であること
※高さ2.0m以下の場合は100mm以上でOK
3,4号鉄筋の状況最低限、鉄筋の有無の確認のみでも可
5号控壁の状況高さの1/5以上突出していること
長さ3.4m以下ごとに設置していること
6,7号基礎の状況最低限、根入れ深さの確認のみでも可
その他建築時期、劣化状況ボロボロになっていないか。安全性の確認

また、国交省の資料に分かりやすく図解されていますので、引用させていただきます。

画像1

擁壁上のブロック塀の安全性の根拠となるのは

擁壁の上に設置されたブロック塀の高さに関する法令上の特別な規定はありませんが、建築学会基準では、下図のように危険な高さの基準を定めていますので、一定の根拠となりそうです。

しかし、施行令62条の8において、塀の高さは擁壁を含めると取扱っている特定行政が多いと思いますので、基本的には、擁壁の高さと合わせて2.2mを超えないようにするべきでしょう。(高さ2.2mを超えると仕様規定から外れて構造計算が求められる。)

画像2

実務においては、「既存コンクリートブロック塀の耐震診断指針(案)・同解説」が参考になります。「現地調査の方法」「耐震診断の方法と耐震性の判定」からなり、目視調査⇒精密調査(配筋の状況や地盤調査結果を加えて行う)の実例も交えて分かりやすくまとまっています。

でも隣地境界線上にブロック塀があること、ありますよね

不適合なブロック塀が隣地境界線上にある場合はどうすればよいでしょうか。

結論から書くと、建築基準法上に特別な取扱いはなく、建築確認上は敷地内にそのようなブロック塀があるなら是正するよう指導されるだけです。

そのブロック塀が改修できるかどうかは、他の法律や社会規範に委ねられます―。
そして、境界上のブロック塀についての代表的な決まりごとと言えば、民法です。

民法によると、基本的に「所有者」にブロック塀を改修する責任があります。

そこで問題となるのが塀の所有がどちらに帰属するかですが、最高裁判所の見解によれば、「築造費用を負担した者」ということになります。また、費用負担者が誰であるか分からない場合には共有と推定されることになります。

境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

民法第229条

ややこしいのは、築造した隣地の所有者が変わってしまった場合です。
本来はその隣人が塀の所有者ですが、本人にその認識がなく不当を主張されてしまうとトラブル待ったなしですから、基本的には民法なんて引き合いに出さずに話し合いをすることが大前提かと思います。

ぶっちゃけ、あと何センチか隣地境界線ずらしてブロック塀を敷地外にしとけばええやん、と思ってしまいますが。(だめです。)

敷地境界・所有権界・筆界の関係についてもう少し詳しく知りたい方は↓の記事を参照ください。

ブロック塀だけの新設で確認申請が必要な場合がある

最後に、手続き関係でひとつ注意してほしいのが、防火・準防火地域で建築物に付属するブロック塀を新しく作る(建築基準法で言う増築)場合は確認申請が必要であること。

前項の規定(法6条1項)は、防火地域及び準防火地域において建築物を増築し、改築し、又は移転しようとする場合で、その増築、改築又は移転に係る部分の床面積の合計が10㎡以内であるときについては、適用しない。

建築基準法第6条第2項

そう、「10㎡以内の増築であれば確認申請が必要ない」というのは防火・準防火地域の話です。防火・準防火地域であれば、ちょこっとブロック塀を作る(増築)だけでも確認申請が必要になるので注意しておく必要があります。

この辺はエクステリア業界に徹底してほしいものですが、なかなか浸透していないようです。最近でも2項道路内へ新設されたブロック塀を見かけますから、無知というのは怖いなと改めて思う次第です。

まとめ

以上、補強コンクリートブロック造に関する法令遵守が厳格化されている中、敷地内に既設のブロック塀がある場合に知っておくべきことをまとめました。

  1. ブロック塀の仕様規定は「施行令62条の8」に全て定められている
  2. 確認申請上は目視可能な範囲で仕様規定への適合を確認すれば「可」であることが多い
  3. 改修しにくい隣地との共有ブロック塀でも、建築基準法としては特別扱いしない
  4. 防火・準防火地域内なら、ちょこっとブロック塀を作るだけでも確認申請必要

たかがブロック塀されどブロック塀、一歩間違えれば人の命を奪う凶器となります。締まって設計していきましょう。

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