お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら)
建築基準法を理解するために避けて通れない特殊建築物という言葉。そもそもの定義はもちろんですが、用語の使われ方のクセを知っておくとミス防止と法文の理解に繋がります。
というのも、特殊建築物は条文ごとに①~③の範囲を限定した使われ方をするから。
特殊建築物に関する規制は必ず①~③のパターンのどれかです。また、包含関係にあることも併せて意識しておきましょう。
①~③別に、引用されている条文と注意点を紹介していきます。
①法2条1項二号:特殊建築物の一般的な定義
特殊建築物の一般的な定義は法2条第1項第二号に記されています。
建築基準法第2条(用語の定義)
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 (略)
二 特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
三 (以下略)
特定の人のみが利用する一戸建ての住宅や事務所は特殊建築物に当てはまりません。また、長屋も特殊建築物ではないとされるのですが、共同住宅との違いは「共用部分の有無」で判断されることが多いです。
実は、法2条の単なる「特殊建築物」を指して規制をかける法律はありません。
実務者としては、後述する別表1の建築物にしか法律の具体的な規制がかからないので、法2条の一般的な定義はあまり意識しないかもしれませんが、不意打ちを食らうケースもあるので無視はできません。
注意すべきは、法40条・法43条により地方公共団体が定める「条例」です。
法40条 地方公共団体は、特殊建築物について条例で敷地、構造、建築設備に関して制限を附加できる。(がけ条例など)
法43条 地方公共団体は、特殊建築物について条例で敷地又は建築物と道路の関係に関して制限を附加できる。(旗竿地の制限など)
これらの条文には、単に「特殊建築物」としか書かれていませんので、法別表1には無い自動車修理工場以外の工場や普通の倉庫といった特殊建築物も規制の対象になることがあります。
例えば、三重県建築基準条例第7条の解説には、『特殊建築物(法第2条第二号に該当するものであり、工場や農業用倉庫も含まれる)』とわざわざ記されています。
②別表1(い)欄:防火避難規定が強化される特殊建築物
別表1(い)欄に用途に供する特殊建築物は防火避難規定(⇒単体規定)が強化されるイメージです。これらは、施行令115条の3と施行令19条も同時に見てようやく完成します。(表にまとめます)
なお、あまり知られていませんが、具体的にどの条文で引用されているのかは表のサブタイトルを見れば全て分かります。
別表第1 耐火建築物等としなければならない特殊建築物
(第6条、第21条、第27条、第28条、第35条~第35条の3、第90条の3関係)
(い)欄の用途 | |
(1) | 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類するもので政令で定めるもの ※政令は未制定 |
(2) | 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの ※政令:児童福祉施設等(幼保連携型認定こども園を含む。) 児童福祉施設等⇒法第19条1項 児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除く。)、助産所、身体障害者社会参加支援施設(補装具製作施設及び視聴覚障害者情報提供施設を除く。)、保護施設(医療保護施設を除く。)、婦人保護施設、老人福祉施設、有料老人ホーム、母子保健施設、障害者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム、障害福祉サービス事業(生活介護、自立訓練、就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る。)の用に供する施設 |
(3) | 学校、体育館その他これらに類するもので政令で定めるもの ※政令:博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場 |
(4) | 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場その他これらに類するもので政令で定めるもの ※政令:公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗(10㎡以内を除く) |
(5) | 倉庫その他これに類するもので政令で定めるもの ※政令は未制定 |
(6) | 自動車車庫、自動車修理工場その他これらに類するもので政令で定めるもの ※政令:映画スタジオ又はテレビスタジオ |
(2)を見ると、患者の収容施設が無い診療所は別表1の特殊建築物ではないんですよ。不特定多数が利用するとは思うのですが…。このへんのクセを理解しとかないといけないですね。
別表1の用途となった場合に適用される規定をまとめると以下のとおりです。サブタイトルに記されている条項が全てです。公共施設の設計者には馴染み深い規定ばかりです。
法6条:(い)欄の用途で床面積200㎡を超えるものは要確認申請
法21条:木造の倉庫、自動車修理工場などで高さ13mを超えるものは主要構造部を耐火構造等としなければならない
法27条:一定の階数・面積を超えると耐火建築物等としなければならない
法28条:劇場、集会場などの居室は原則、換気設備を設けなければならない
法35条:避難及びに消火に関する技術基準が適用される
法35条の2:内装制限が適用される
※法35条の3は規制ではありません。
法90条の3:仮使用認定の際に安全計画の届出義務が課される
確認申請の要否、耐火要求、政令5章(避難施設等)、内装制限…色々と規制が厳しくなりますね。
③法6条1項一号:確認申請が必要な特殊建築物
別表1の特殊建築物とほぼ同じ守備範囲なんですが、実は法文中には『第6条第1項第一号に掲げる建築物』という文言で引用されることも同じくらいあるので意識はしておいた方が良いです。
いわゆる「一号建築物」ですね。
一号建築物は一定の規模以上の特殊建築物ということで、安全に関して行政処分の対象となったり手続き規定などで規制が強化されるイメージです。
引用されている主な条文を以下に紹介します。(具体的な制限があるものだけ)
法7条の6:検査済証を受けるまでの使用制限がある(仮使用認定)
法10条:特定行政庁は、保安上危険な一号建築物の所有者等へ勧告・命令をすることができる
法12条:定期報告が必要な「特定建築物」は一号建築物が中心となる
法41条:市町村が条例による制限の緩和を設けても一号建築物には適用されない
法87条:一号建築物への用途変更時に確認申請関係規定が準用される
法87条の4:一号建築物へ、EVや定期報告が必要な設備を設けるときは確認申請が必要
法90条の2:特定行政庁は、安全上支障のある一号建築物の工事を制限することができる
各条文の解説は以下の記事をご参照ください。
建築基準法の各種規制の確認には「要はこういうこと」が簡潔にまとめられている確認申請memoがオススメです。根拠条文で理解をしておいて、記憶の確認は参考書で簡単にしちゃいましょう。
まとめ
建築基準法のトラブルって「適用されると思わなかったのに、実は適用される」とかその逆だったりすので、微妙な違いによる区分は頭の中でよく整理しておくべきです。
特殊建築物については、①~③の区分を意識しておくこと。
①は法律で具体的な規制は無いけど、地方公共団体の条例に気をつける
②については防火避難規定が強化される(法27条と法35条が中心)
③は確認申請だけでなく、定期報告などの手続き関係の規定が適用される