用語と手続き

基礎は大丈夫?現場事務所に関する建築基準法を整理

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この記事のポイント
  • 現場事務所⇒確認申請不要の根拠
  • 仮設建築物としての許可不要の根拠
  • 現場事務所の定義
  • 「緩和される規定」と「緩和されない規定」の注意点
  • 基礎の構造について

こんにちは、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら

今回は、現場事務所ないし「仮設建築物」にまつわる建築基準法について整理します。

現場事務所(工事を施工するために現場に設ける事務所)確認申請が不要という認識だと思いますが、ゼネコンの方でも「なぜ確認申請不要なのか」「現場事務所の定義ってそもそも何」ということを案外ご存じないことがあります。

コンプライアンス重視の昨今、なぁなぁでやっていた昔からの慣例では通らなくなっていますので、これを機に法令のおさらいしておきましょう。

現場事務所が確認申請不要の理由

結論から述べると、現場事務所の建築にあたり確認申請が不要なのは、建築基準法85条2項に規定する「仮設建築物」にあたるからです。

まずは法文をチェックしましょう。

建築基準法第85条第2項
 災害があった場合において建築する停車場、官公署その他これらに類する公益上必要な用途に供する応急仮設建築物又は工事を施工するために現場に設ける事務所、下小屋、材料置場その他これらに類する仮設建築物については、第6条から第7条の6まで、第12条第1項から第4項まで、第15条、第18条(第25項を除く。)、第19条、第21条から第23条まで、第26条、第31条、第33条、第34条第2項、第35条、第36条(第19条、第21条、第26条、第31条、第33条、第34条第2項及び第35条に係る部分に限る。)、第37条、第39条及び第40条の規定並びに第3章の規定は、適用しない。ただし、防火地域又は準防火地域内にある延べ面積が50㎡を超えるものについては、第62条の規定の適用があるものとする。

工事を施工するために現場に設ける事務所は、確認申請を定める法6条はじめその他羅列されている条項は適用除外されると書いてあります。

よって、確認申請が不要です。

しかしここで勘違いしていはいけないのは、85条2項の仮設建築物については確認申請が不要であるから第三者のチェックが無いだけで、基本的には適用除外される条項以外の建築基準法を遵守しなければならないということ。

法20条(構造関係規定)は適用除外されてないので、仕様が明らかなユニットタイプでも、少なくとも基礎の検討は必須です。

「仮設建築物だから、建築基準法そのものが適用除外」という誤った認識の方が散見されますので、注意してください。

ちなみに災害があった場合において建築する停車場、官公署その他これらに類する公益上必要な用途に供する応急仮設建築物」は具体的に何かというと、最近では病院の駐車場等に設置される新型コロナウイルス感染症対応(PCR検査や発熱外来など)の仮設建築物が適用されいている事例が多いです。

現場事務所は許可も不要

同じ仮設建築物でも、法85条6項に定める仮設建築物(興行場、博覧会場、店舗など)については、特定行政庁に許可されて初めて「仮設建築物」になれるのに対し、法85条2項に定める現場事務所については許可に関する規定がありません。

建築基準法第85条第6項
 特定行政庁は、仮設興行場、博覧会建築物、仮設店舗その他これらに類する仮設建築物(次項及び第101条第1項第10号において「仮設興行場等」という。)について安全上、防火上及び衛生上支障がないと認める場合においては、1年以内の期間(建築物の工事を施工するためその工事期間中当該従前の建築物に代えて必要となる仮設店舗その他の仮設建築物については、特定行政庁が当該工事の施工上必要と認める期間)を定めてその建築を許可することができる。この場合においては、第12条第1項から第4項まで、第21条から第27条まで、第31条、第34条第2項、第35条の2、第35条の3及び第37条の規定並びに第3章の規定は、適用しない。

法85条の1項、2項、6項それぞれに「仮設建築物」が登場しますが、それぞれ緩和される規定が違うので「1項仮設」「2項仮設」「6項仮設」と呼び分けています。現場事務所は2項仮設ですね。

設置期間の縛りもなし

実は法85条2項に定める仮設建築物の中でも応急仮設建築物については、3か月以上存続させる場合に特定行政庁の許可を得る必要がある(法85条3項)のですが、一方で、現場事務所については期限に関する定めがありません。

つまり、現場事務所という名前のとおり、工事開始から終了までが設置期限ということになります。

結論的には当たり前のことですが、法律順守というのはこういったことを一つ一つ確認していくしかないのですよね。

市街化調整区域にも設置できる

市街化調整区域に建築する場合には、原則、都計法43条の建築許可を受ける必要がありますが、建築基準法85条2項及び6項の仮設建築物であれば当該規定が適用除外されます。

よって、現場事務所の建築において、線引きは気にしなくてもOKです。

そもそも「現場事務所」とは

さて、上記した「確認申請不要」「緩和規定いっぱい」「許可不要」「設置期限なし」である現場事務所のメリットを享受するためには、現場事務所の定義と取扱いを理解しなければなりません。

法文を再度確認すると以下のとおり。

建築基準法第85条第2項
 前略…又は工事を施工するために現場に設ける事務所、下小屋、材料置場その他これらに類する仮設建築物については…適用しない。…後略

この短い言葉の中だけで「現場に設ける」「その他これらに類する」などの怪しそうなワードがありますが、実際のところ、法85条2項の現場事務所として認められるか否は、各特定行政庁がそれらのワードをどのように解釈するかで基準が異なることに注意しましょう。

「その他これらに類する」に無限の可能性を見出すのが建築基準法ですから。

調べる際は、各特庁の建築基準法取扱集や、過去の国交省通達などが参考になりますので、以下に紹介します。

「現場に設ける」とは

「現場に設ける」とは、工事請負契約による工事(特定できる工事)を施工するための敷地内と解釈するのが一般的です。

しかし現場が狭かったり、複数の施工現場に分かれたりして、現場外に仮設事務所を設置せざるを得ないこともありますよね。そんなときの実務者の感覚としては、道路一本挟んだり、近接で借地する程度の場合でも、現場外と判断される可能性があるため特庁へ事前相談しておくのがベストです。

例えば、愛知県の取扱いでは、工事現場から概ね50m以内の範囲に設ける場合には「現場に設ける」と見なせるとしています。さらに、50mを超え1.5km以内の場合には法85条5項の許可を受ける必要があるとしています。さらにさらに、1.5kmを超えた場合は「仮設建築物」として扱わないとしています。(参考:愛知県建築基準法関係例規集[平成 29 年版])

結構はっきりしてますね。

私が受けた相談で最も特殊だったのが、高速道路橋脚の耐震改修工事(一本の工事請負契約)で、自治体をまたぐ複数の現場のための仮設事務所をその中間地点に借地して設置したいというもの。設置予定地から最も遠い現場まで10km以上あるけど、確かにやむを得ないよなぁというケースでした。

そのような特殊ケースは「工事現場との距離や位置関係、周囲への影響、やむを得ない特別な事情等」によって個別判断されることなります。特定行政庁に相談する際には、現場と現場事務所予定地が分かる位置図や配置図に以下の事項を明示して特庁の窓口へ持参しましょう。

  • 現場から現場事務所予定地への経路(主要道経由でアクセスできるか)
  • 現場事務所の構造規模(ユニットであればカタログでOK)
  • 敷地の利用方法(駐車場、朝礼広場、資材置場…など)
  • 工事用車両の大きさと出入りの頻度
  • 水道、電気の調達方法(契約期間をどのように考えているか)
  • トイレの本設or仮設(浄化槽の場合、環境課などへ設置届を提出)

特定行政庁は、上記の材料をもとに、法85条2項への適用可否について判断してくれます。

イレギュラーなことを判断するには、時間がかかりますので、余裕を持って相談に行きましょう。

「現場に設ける」に該当しない場合は…

注意すべきは、「現場に設ける」に該当しないと判断された場合は、法85条2項を適用できないので確認申請が必要になります。もっと言うと、その他の緩和規定もなくなるため、緩和が必要があれば5項の許可を受けなければならず、許可申請などの事務手続きが発生してしまいます。

5項仮設に認められるには特庁の許可を要しますし、法6条が適用除外されないので確認申請が必要なのです。どうしても緩和しなければならない規定が無いのであれば、普通に確認申請出して建てた方が楽なことも多いです。

万が一、仮設事務所を設置してしまった後に手続き違反が発覚した場合には特庁の指導が入りますから、最悪の場合現場が止まってしまい、工期が遅れる可能性もあります。

いわゆるプロ市民と言われる方々の通報は結構あります。特庁は通報を受けたら調査せざるを得ません。。

「その他これらに類する」とは

さて、「工事を施工するために現場に設けるもの」であれば、法文中にある下小屋・材料置場以外にも仮設建築物として扱える可能性がありますので特庁へ相談してください。

大きな現場であれば、作業員用の売店や食堂もありますし、過去事例では宿泊施設や浴場なんかもあるみたいです。

参考になるのは、下記の例規です。(長くなるので、各自お調べください。)

  • 工事用仮設建築物の解釈(昭28住指発1217)
  • 工事用仮設建築物(昭61住指発33)

緩和される規定・されない規定の注意点

現場事務所が緩和される条項を表にしてまとめてみます。(法85条2項より)

緩和法令内容
法6条から
法7条の6
建築確認申請、構造計算適合性判定、完了検査、中間検査、完了検査済証交付前の使用制限
法12条
1項〜4項
特定建築物の定期報告、特定建築設備等の定期報告
法15条建築工事届出、除却届出
法18条計画通知(国、都道府県、建築主事を置く市町村)
法19条敷地の衛生及び安全
法21条大規模の建築物の主要構造部等(鉄骨造なら関係なし)
法22,23条屋根の不燃化、延焼外壁の性能(ユニットなら不燃材なので関係なし)
法26条防火壁(1,000㎡超えなければ関係なし)
法31条便所
法33条避雷設備(高さ20mを超えなければ関係なし)
法34条2項非常用の昇降機(高さ30mを超えなければ関係なし)
法35条特殊建築物等の避難等に関する技術的基準
法36条建築物の敷地・構造等に関する施行令の規定
法37条建築材料の品質
法39条災害危険区域
法40条地方自治体の条例による制限の付加
第3章集団規定すべて

小中規模のユニットハウス現場事務所であれば、関係ない条項も多い中、やはり最大のメリットは第3章の適用除外でしょう。

第3章は集団規定(接道、用途制限、容積率、建蔽率、高さ制限等)ですが、それらが適用除外になることで、接道が取れない敷地や、用途地域的に立地不可能な場合でも、現場事務所なら建築することができます。

やはり、留意すべきは適用除外される条項の中に法20条が無いこと。

ユニットハウスであれば上物について建築基準法違反となることはないと思いますが、基礎については基本的に構造検討を行う必要があります。

この点を指摘すると、驚かれる現場監督さん案外多いですよ。ただ、告示によって緩和されることもあるので、もう少し深堀してみましょう。

現場事務所の基礎構造

ややこしいので、先に結論を書いておきます。そのうえで解説を読んだ方が入ってきます。

  • 鉄骨2階建て以上もしくは床面積200㎡を超える現場事務所は本設の一般的な建築物と同様の基礎とする必要がある。(仕様規定に適合させるか、構造計算をする必要がある。)
  • 平屋で床面積200㎡以下の現場事務所は基礎に関する規定の多くは適用除外となるが、安全性の確認はした方が良い。(転倒・滑動などのチェック)

さて、基礎に関する規定は法20条⇒施行令38条です。その中で、建築物の基礎は告示「平成12年5月23日 建設省告示第1347号 建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」に適合しないさいよ、ということが定められています。

そしてこの告示、さらっと読むだけですと「仮設建築物」については適用除外されているように見えるのですが、実は法6条でいうところの二号建築物及び三号建築物については適用除外対象から除かれている(ややこしい表現ですが)のです。

建築基準法第6条
 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合…(中略)…確認済証の交付を受けなければならない。…(中略)

一  別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が、200㎡を超えるもの
二 木造の建築物で3以上の階数を有し、又は延べ面積が500㎡、高さが13m若しくは軒の高さが9mを超えるもの
三 木造以外の建築物で2以上の階数を有し、又は延べ面積が200㎡を超えるもの

…(後略)

要するに、鉄骨造であるユニットハウスで2階建て以上とするか、平屋でも200㎡を超えた途端に、本設と同様の基礎構造を求められます。つまり、構造計算をしない限り、告示仕様である布基礎orべた基礎or杭基礎としなければなりません。

告示仕様を逃れるために行う構造計算は、同告示第2に定められていますので、各自ご参照ください。

また、平屋で床面積200㎡以下であれば告示は適用されないのですが、施行令38条1項は適用されるため、具体的な仕様規定はないものの「構造耐力上安全なもの」であることは求められます。

よって、地面に直置きする行為は建築基準法令に違反と判断される可能性が高いです。

鉄板敷などの基礎とした場合でも「転倒、滑動、沈下」に対して最低限のチェックはして安全を確保したいところです。工事中に災害に見舞われることも考えられますので。

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まとめ

お察しだと思いますが、現場事務所については確認申請も特庁許可も不要なので、第三者の法規チェックがされることなく建築⇒解体されていることがほとんどだと思います。

だから、正直のところ無法地帯(だった)なんですよね。。

しかしながら、コンプライアンス重視の昨今、真っ当な施工者なら本記事の知識ぐらいは最低限備えたうえで、法令順守に努めたいものです。最近は意識の高いプロ市民と言われる方からの通報も多々あるようですので、知識不足による言い訳のできない違反はやめましょう。

  • 現場事務所が確認不要なのは法85条2項の仮設建築物だから
  • 法85条2項の仮設建築物の中でも現場事務所は特庁の許可が不要
  • 現場外に設ける場合は法85条2項が適用できるか特庁へ要確認
  • 法第3章の規定が適用除外されるため、接道や用途地域を気にしなくても良い
  • 市街化調整区域においても都計法43条が適用除外されるため気にしなくても良い
  • 法20条は適用除外されないため基礎の検討は必ず行うこと

また、これらは”法85条2項の”現場事務所に該当した場合の話です。そもそも現場事務所と言えるのか自信が無い場合は必ず特定行政庁に事前相談しましょう。

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