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建築士でなければできない設計・工事監理とは【建築家や設計士は?】

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この記事のポイント
  • 基本的に建築士不在の設計監理はあり得ない
  • 建築士のランク毎に設計監理しても良い構造規模・用途が定められている
  • 建築家、設計士、建築デザイナーはただの言葉であり設計に対する責任能力は0
  • もちろん、デザイン力・実務力と資格の有無は関係ない

お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら

今回は「建築士でなければできない設計又は工事監理」について解説します。

建築の設計・工事監理は建築士の独占業務である。なんて言われますが、無資格でも設計業務っぽいことをしてる人は実際いるし、そもそも法的に「設計する」ことの意味って何なのか、あまり意識してない実務者も残念ながら多いです…。

設計事務所の求人欄に「設計士募集」って書いてあったんだけど、何か資格が必要?

いま、うちの住宅を設計してくれている会社の担当者は建築士の資格を持ってないらしいけど、何か問題あるの?

建築主にも「建築士に工事監理させなければならない」という義務が課されますので、契約相手が資格者かどうか、法的責任を果たせるか、という当たり前のチェックも欠かすことは出来ません。

また、あの有名な建築家だって、建築士の資格を持っていないこともあるのです。脱法…?

具体的に整理していきましょう。

根拠法令は、建築士法と建築基準法

建築の設計監理が「建築士」の独占業務と言われる根拠は以下のとおり。建築設計はデザインやクリエイティブの側面が目立ちますが、めちゃくちゃ地味な「士業」としての側面も決して無視することはできません。

建築士法による規制
・建築士とは一級建築士、二級建築士、木造建築士をいう(第2条)
一定の建築物の設計又は工事監理は建築士でなければできない(第3条、第3条の2、第3条の3)
・報酬を得て設計等を行う場合には、建築士事務所登録を受けなければならない(第23条)

建築基準法による規制
一定の建築物は、建築士の設計によるものでないと工事ができない(第5条の6第1項)
一定の建築物を工事する際、建築主は建築士を工事監理者として定めなければならない(法5条の6第4項)

「建築士」は建築士法に定められた国家資格です。特に、一級建築士の試験難易度は行政書士や気象予報士よりも上と言われており、難関です。

建築士でなければできない設計・工事監理

上記した「建築士でなければ設計・工事監理できない一定の建築物については、建築士のランク毎に対応した構造・規模・用途が定められています。一級建築士は設計できる規模が無制限で、木造建築士は木造2階建て300㎡未満までしか設計できません。

根拠となる建築士法第3条、第3条の2、第3条の3の内容を表にまとめてみます。

出展:東京都都市整備局

なお、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合は、「その設計に係る部分」を新築するものとみなして、上記の規定を適用します。

とはいえ意外に大きい「誰にでもできる」範囲。例えば、木造2階建てで100㎡以下の狭小住宅であれば、法上は誰でも設計することは可能です。(その技術力があるかは別の話ですが。)

第3条の2及び第3条の3(最低でも木造建築士でないと設計・工事監理できない構造規模)については地方自治体の条例でさらに制限が付加されることがありますので、ご注意ください。

例えば、大阪府条例「建築物の設計または工事監理の制限に関する条例」では、住宅(その延べ面積の2分の1以上を居住の用に供するもの)であれば延べ面積が50㎡以上で資格が必要。としています。

建築士法は、文字通り建築士のに業務に関する規定を定めた法律であるため、これを遵守するべき主体は建築士自身及び建築士事務所の経営者です

工事監理者の任命責任は建築主にある

建築基準法では「建築士でなければ設計又は工事監理できない一定の建築物が、無資格者により設計された場合の工事を禁止しています。

また、「建築士でなければ設計又は工事監理できない一定の建築物の工事を行う際には建築士である工事監理者を定めなければならない、と建築主にも法的責任があることを明記しています。(法第5条の6)

建築基準法第5条の6(建築物の設計及び工事監理)
 建築士法第3条第1項(同条第2項の規定により適用される場合を含む。以下同じ。)第3条の2第1項(同条第2項において準用する同法第3条第2項の規定により適用される場合を含む。以下同じ。)若しくは第3条の3第1項(同条第2項において準用する同法第3条第2項の規定により適用される場合を含む。以下同じ。)に規定する建築物又は同法第3条の2第3項(同法第3条の3第2項において読み替えて準用する場合を含む。以下同じ。)の規定に基づく条例に規定する建築物の工事は、それぞれ当該各条に規定する建築士の設計によらなければ、することができない。
(中略)
 建築主は、第1項に規定する工事をする場合においては、それぞれ建築士法第3条第1項、第3条の2第1項若しくは第3条の3第1項に規定する建築士又は同法第3条の2第3項の規定に基づく条例に規定する建築士である工事監理者を定めなければならない。

一定の建築物より小さい建築物であれば工事監理者の選定は義務ではありません。もっと言うと、工事監理自体を行うかどうかも建築主の自由になりますが…。建築士の関与無しでは特例を受けることができず、現実には難しいでしょう。

無資格で設計業務をしている人もいるけど?

しかしながら実際には、建築士の資格を持たずに、建築士事務所の所員として設計業務を行っている方がいっぱいいます。(資格を取れないのか、あえて取らないのかは…?)特に、住宅業界では平然と無資格の方が設計の打合せや行政手続きの窓口に現れたりします。

あれ?建築士でないと設計しちゃダメなんじゃなかったでしたっけ?確認申請の代理業務ですら無資格者はやっちゃダメですよね?

なぜこれが合法(脱法?)なのか、建築士法で定める「設計」と「工事監理」の定義を振り返りつつ確認してみましょう。

設計と工事監理の定義

そもそも論です。建築士法による「設計」「工事監理」の定義は以下のとおり。

建築士法第2条
(前略)
 この法律で「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。
(中略)
 この法律で「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。
(後略)

一般的には、単なる製図作業やCADオペは法上の「設計」には当たらないと解されています。(技術的な判断の割合によっては線引きが難しいと思いますが。)それよりも注目すべきは、法文には「その者の責任において」という言葉が繰り返されていること。

建築士が「設計する」「工事監理する」というのは、建築士法により一定の知識や技術力を有する者以外の設計を禁止するということ以上に、設計の欠陥や工事監理の不備があった場合に、「その者が全ての責任を負いますよ」という意味が大きいのです。

有資格者による設計の義務は、技術力の担保という側面はもちろんですが、「責任という十字架を誰が背負うのか」に主眼を置いているんですね。

そのことから、設計事務所というチームで設計を行う場合には、法上の設計者(責任者)として管理建築士や資格を持つ社長名のみ記名することが慣例となっているので、設計図書を作成するにあたり、所員が建築士であるかどうかは問題にならないのです。(設計補助扱いで法上の設計者にしないことが多い。)

これが、無資格者が設計業務を行っている実態のカラクリです。ただし、最近では、特に組織設計事務所を中心に、若手であっても資格者は設計図書に記名することが広まってきていますので良い流れだと思います。

「設計」は人命を預かり、でかい金を動かす重い行為です。若手の社員であれば社内的には責任は軽いかもしれませんが、法律上は等しく責任を負うべきですね。

設計等で食うには建築士事務所登録が必要

建築士法2条と法3条は設計の責任を誰が負うか(負えるか)、という話でした。

一方で、建築士資格の有無に関わらず、ある人が報酬を得て(確認申請の代理申請などを含む)設計等をする場合には、建築士が所属する建築士事務所として登録を受ける義務があります。(建築士法23条)

法3条によれば木造2階建てで延べ面積100㎡以下の建築物の設計あれば誰でもできるはずですが、その設計を業としようとすると事務所登録が求められ、結果的に建築士の資格が必要になります。

まぁ、無資格者が建築士を雇って事務所を定めたうえで、業として小規模建築物の設計をするという方法が無いことは無いですが…。

建築家、設計士、建築デザイナーって…何者?

さて、巷には「建築士」以外にもそれっぽい名を自称する人がたくさんいます。

  • 建築家
  • 設計士
  • 建築デザイナーなど

どれも法令で定義されませんし、資格でもありませんので「ただの言葉」として理解すればOKです。また、これらを自称する無資格者は、(実力は別にして)知識や技術力について第三者のお墨付きがなく、自らの設計に対して責任能力が無いことに注意が必要です。

当たり前ですが、実務経験の無いペーパー一級建築士がいる一方で、実務経験バリバリでセンス良しの無資格者もいます。調理師よりも美味しい料理を作る主婦とか、管理栄養士と”料理研究家”の関係といったところでしょうか…。

建築家

(公社)日本建築家協会によるとその定義は以下のとおり。

「建築家(architect)」とは建築の設計や監理、その他関連業務など建築関係のプロフェッショナルサービスを提供する職業です。(以下略)
引用:(公社)日本建築家協会

法治国家である日本では、一定の建築物の設計監理は建築士でなければできませんので、プロフェッショナルサービスを提供する能力があることと、しても良いこととは切り離して理解しておくべきです。(デザイン監修などの表現ならOKでしょうが、建築士でない建築家が「私が設計しました」と公に言うべきではないと思います…。)

また私見ですが、建築家は自他共に認められて初めて名乗ることが許される肩書であると思います。実績や社会的影響力(これが重要)を有し、設計に限らず建築の研究と実践をする人といったところでしょう。

料理研究家って一体何者!?っていう気持ちと似てますね。彼らが調理師免許や管理栄養士の資格を持っているとは限らないんですよね。

設計士

ハウスメーカーなどの住宅業界でよく用いられる「設計士」という呼称は、ただ「担当名」を表しているという理解で良いと思います。(営業担当や施工担当と区別するために用いる社内での呼称)

「士」と付けることで建築士などの士業と誤認を招くため好ましくありませんよね…。資格者であれば必ず名前の脇に「○○建築士」と記載しているはずです。

設計士と名乗る無資格者が担当する物件については、法上の設計者は社内の別の建築士(実際に手を動かしたかどうかは…?)となりますので、万が一違反や瑕疵があった場合には、その設計士は法的責任を取りませんし、取れません。

いくらプランニングやプレゼンが上手くても法的責任能力がない人が、メインで設計を担当しているって何か怖くないですか…?ちなみに大手ゼネコンや組織設計事務所で「設計士」という言葉は聞いたことがありません。

建築デザイナー

もはや何者か分かりませんが、巷にはこのような肩書(?)を名乗る方がいらっしゃるようです。マンションとか店舗の内装関係に多いかな…?デザイナーズマンション的な…?

インテリアコーディネーターやインテリアプランナー(民間資格)と建築士の誤認を招くため好ましくありませんね。○○デザイナーって基本的に怪しい。

建築の設計を志した方なら、一度は建築士として建築士事務所を開設して、報酬を得て生活することについて妄想したことがあるのではないでしょうか。↓の書籍には割とリアルなお金の話もあり参考になりました。誰かに独立の相談をする前にコッソリ読んでみましょう…。

まとめ

建築士でなければできない設計又は工事監理について解説しました。

  • 建築士のランク毎に設計できる構造規模・用途が法令で定められている。
  • 報酬を得て設計等をする場合には、建築士事務所登録をしなければなない。
  • 上記2点から、設計監理は建築士の独占業務と言われている。
  • 法上の設計とは「自ら責任を負い設計図書を作成する」という意味である。
  • 建築家、設計士、建築デザイナーは皆自称であり設計に対する責任能力は0。
  • 言うまでもなく、デザイン力・実務力と資格の有無は関係ない。

建築士法により、建築士は設計監理を独占業務とさせてもらう代償として法的責任能力を背負わされているのです。無資格者はどれだけ実力があってもこの土俵に上がれず、まさに人のフンドシで相撲を取っている状態なんですね。

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