令和3年4月に八王子市内で共同住宅の木造屋外階段が崩落し、人が亡くなる事故が発生したことを受けて、建築基準法における「木造の屋外階段」の取扱いが厳格化されています。
具体的には、令和4年4月施行の省令改正により確認申請や検査が厳しくなったり、定期報告が必要になったり。またそれと同時に、これまで曖昧だった「防腐措置等ガイドライン」が制定されるなどの動きがありました。
本記事では、これから事業者・設計者が「木造の屋外階段」を計画する際に必要な法規をまとめます。
階段は、非常時に2階以上から避難する人の命綱であり、崩落なんてもってのほか!適法で安全に利用できることが大前提です!
木造の屋外階段に関する規定
まずは、木造の屋外階段がダメと言われる根拠法文を確認してみましょう。
建築基準法施行令第121条の2(屋外階段の構造)
前2条の規定による直通階段で屋外に設けるものは、木造(準耐火構造のうち有効な防腐措置を講じたものを除く。)としてはならない。
法文を読めばわかる通り、木造としてはならないのは直通階段であり、なおかつ屋外に設けるもののみです。逆説的に、それ以外の階段は木造にしても法的にはOKです。
実務者としては、直通階段と屋外階段の定義を理解しないと話は始まりません。まずは、これらの単語のおさらいをしましょう。
直通階段とは
直通階段とは、避難規定(施行令5章2節:施行令117条~126条)がかかる建築物に設けられる階段です。なお、避難規定がかかる建築物は施行令117条に羅列されおり、箇条書きにすると以下のとおり。
・別表第1(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物
・階数が3以上である建築物
・採光無窓居室※を有する階
・延べ面積が1,000m2をこえる建築物
※無窓居室については117条文中「前条(116条)第一号に該当する窓その他の開口部を有しない居室」とあり、採光無窓のことを指しています。つまり、二号の排煙無窓を有する階には第2節の避難規定は適用されないんです!
おおもとの法35条に規定する建築物の中でも、採光無窓だけを対象としているイメージです。
で、上記建築物については、施行令120条(直通階段の設置)及び121条(2以上の直通階段を設ける場合)が適用されるため、当該建築物に設置される階段は直通階段になります。
ということは、一般的な木造2階建ての一戸建て住宅なら、木造の屋外階段は法的にOKですね。
直通階段の具体的な構造などは、法文&解説書をチェックしてください。令121条の2(屋外階段の構造)を読むだけなら、とりあえずこのくらいの理解でOKです。
屋外階段とは
どのような階段を屋外階段とするかは、法律には定められていません。
よって、屋内or屋外階段になるかは各特定行政庁の判断よるということになりますが、一般的には「建築物の防火避難規定の解説」に準ずることになると思います。
階段の2面以上、かつ、周長のおおむね2分の1以上が有効に外気に開放された階段は、令第23条第1項ただし書に規定する屋外階段として取り扱うことができる。なお、当該開放部分に腰壁手すりが設けられている場合にあっては、手すりの上部が高さ1.1m以上有効に外気に開放されている必要がある。
出典 : 37 階段 1)屋外階段と屋外避難階段の取扱い 建築物の防火避難規定の解説 2016 115ページ
矩形の階段の場合、周長の1/2以上を外気に開放すると、自然と「2面以上」の条件はクリアされます。また、手すり上部の開放部分の高さについては、1.1m以上だけでなく、天井高さの1/2以上を確保することが求められることが非常に多いです。
さらに、「外気に開放」の取扱いにも触れなければいけませんが、以下の場合には判断が微妙になることがありますので、詳しくは特庁か審査機関に相談しておいた方が良いでしょう。
- 階段が隣地境界線に近い場合(50cm以上の離隔を確保するなど)
- ドライエリアに設ける場合(1m以上の離隔を確保するなど)
- 隣接する建築物や擁壁等が近い場合(1m以上の離隔を確保するなど)
- 階段を支える柱がある場合(小規模なものは無いもとみなすなど)
- ルーバー等の目隠しを設置する場合(見付の1/2は空いていることなど)
条件付きで木造の屋外階段は可能
さて、前述した直通階段かつ屋外階段でも、施行令121条の2カッコ書きを満たせば、法的に木造とすることが出来ます。具体的には以下の2点を満たせばOKです。
- 階段を準耐火構造とする
- 有効な防腐措置を講じる
建築基準法施行令第121条の2(屋外階段の構造)
前2条の規定による直通階段で屋外に設けるものは、木造(準耐火構造のうち有効な防腐措置を講じたものを除く。)としてはならない。
とはいうものの、冒頭で触れた八王子の階段崩落事故があるまで、施行令121条の2に規定する「有効な防腐措置を講じたもの」の判断基準はめちゃくちゃ曖昧で、民間の審査機関によってはそれ自体を認めていないこともあるような状況です。
施行令121条の2が適用される計画の場合は、あらかじめ申請先に相談しておいた方が良さそうですね。
有効な防腐措置とは(具体的な仕様は未だ定めなし)
そんな中、令和4年4月に改正省令が施行され、木造の屋外階段について建築確認申請時に必要な添付図書の明確化がされるに伴い、防腐措置・支持方法の明確化や、適切な維持管理のため「木造の屋外階段等の防腐措置等ガイドライン」が国土交通省によりとりまとめられました。
詳しいことは読んでもらえば分かるのですが、依然として「こうすれば有効な防腐措置としてOK」という明確な仕様までは示してくれてないため、まだまだ遊びのある(逃げの効く)判断基準であることに変わりなく、やはり申請先への相談は必須と言えますね。。
ただ、項目が整理されただけでも大きな進歩です。計画・設計時には以下の点に配慮していきましょう。(技術者としては当然のことばかりですが…。)
- 設置環境への配慮(水分が滞留する場所は避ける)
- 防水処理(FRPやシート防水の活用)
- 材料の耐久性確保(腐朽防止の薬剤処理)
- 雨がかりに対する措置(屋根等の設置)
- 水分の滞留防止措置(排水や結露水対策)
- 点検のための措置(接合部等の点検へ配慮)
- 支持方法(自立or建築物への荷重、接合部の検討)
<令和4年4月追記>
同ガイドラインの参考資料として、防腐措置等及び維持管理に関する具体事例及び解説が取りまとめられましたので以下にご紹介します。
準耐火構造の階段とは
ちなみに、準耐火構造については建設省告示第1358号(平成12年5月24日)をご確認ください。簡単に解説すると、以下のいずれかの条件です。
- 段板とそれを支える桁の木材の厚さを6cm以上とする
- 木材厚さが6cm未満のものは、石膏ボード等で適切に耐火被覆を設ける
その他、大臣認定を取得した仕様なら告示に適合しなくてもOKです。
定期報告の告示改正で維持管理も厳格化される
少し話は変わりますが、法12条の定期調査報告において、木造の屋外階段等に係る「階段各部の劣化及び損傷の状況」の調査方法及び判定基準が追加されます。
計画地を所管する特定行政庁が、法12条の定期調査報告の対象として共同住宅を指定している場合(※)には特に、定期調査報告時に「要是正」となりにくいように配慮して階段を設計すべきでしょう。
(※)共同住宅が定期報告の対象となっているかは、所管の特定行政庁ごとに異なりますので、各自治体のHP等でご確認ください。
定期報告について詳しくは↓の記事を参照ください。
まとめ
階段は避難のライフラインであるため、屋外階段を木造とすることは技術的に不合理であるように思われますが、コスト面に魅力があるため採用している建築士や工務店があることもまた事実です。
やむを得ず計画する場合には、法令順守はもちろん、技術的に安全検討を十分にすべきです。
- 避難規定がかかる建築物は原則、木造の屋外階段不可
- ただし、準耐火構造として防腐措置を講じれば例外的に可能
- 防腐措置は国交省のガイドラインを参照すべし