- 完了検査前に使用できる建築物とできない建築物の違い
- キーワード「避難施設等」の定義とは
- 使用できない建築物でも「仮使用認定」を受ければ使用は可能に
お疲れ様です、一級建築士のくるみです。(twitterはこちら)
今回は、完了済証の交付前に使用できる建築物と使用できない建築物の違いを分かりやすくまとめます。

すぐに住めるよう完了検査前に家具や什器を搬入ておきたいんだけど?

テナント決定後に順次内装工事を行いたいけど、入居が決まった部分にについてはオープンしていきたい。
「建築物は検査済証が交付されるまで使用しちゃダメ」という話はよく聞きますが、一戸建て住宅のように小規模で利用者が限られる建築物の工事や、不特定多数の利用がある建築物でも避難施設に関係の無い工事については、工事中の使用制限は無かったりします。
この規定は条文の内容が意外に細かいので、監理者・施工者としては内容を一度理解しておかないと、上記のようなニーズに素早く対応できません。
分かりやすく、解説します。

使用出来ない理由が工事契約によるものなど、建築基準法外のことはまた別の話ですのでご注意を。
工事中の使用制限の根拠
なぜ工事中の建築物の使用が制限されるかの根拠を確認しましょう。法7条の6に全てが書いてあります。
建築基準法第7条の6(検査済証の交付を受けるまでの建築物の使用制限)
第6条第1項第一号から第三号までの建築物を新築する場合又はこれらの建築物(共同住宅以外の住宅及び居室を有しない建築物を除く。)の増築、改築、移転、大規模の修繕若しくは大規模の模様替の工事で、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラーその他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置、非常用の昇降機若しくは防火区画で政令で定めるものに関する工事(政令で定める軽易な工事を除く。以下この項、第18条第24項及び第90条の3において「避難施設等に関する工事」という。)を含むものをする場合においては、当該建築物の建築主は、第7条第5項の検査済証の交付を受けた後でなければ、当該新築に係る建築物又は当該避難施設等に関する工事に係る建築物若しくは建築物の部分を使用し、又は使用させてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合には、検査済証の交付を受ける前においても、仮に、当該建築物又は建築物の部分を使用し、又は使用させることができる。
一 特定行政庁が、安全上、防火上及び避難上支障がないと認めたとき。
二 建築主事又は第7条の2第1項の規定による指定を受けた者が、安全上、防火上及び避難上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合していることを認めたとき。
三 第7条第1項の規定による申請が受理された日(第7条の2第1項の規定による指定を受けた者が同項の規定による検査の引受けを行つた場合にあつては、当該検査の引受けに係る工事が完了した日又は当該検査の引受けを行つた日のいずれか遅い日)から7日を経過したとき。
法7条の6本文では、法6条の一号~三号建築物について①新築をする場合と②増築をする場合に分けて、検査済証の交付前に使用させてはならない工事を設定しました。ただし書きは「仮使用認定」に係る規定です。
また、〇号建築物がよく理解できていない方は↓の記事をご参照ください。
ぱっと見で理解できるように一覧表にします。
建築物の種類 | ”棟別で考える”工事の種類 | ||||
新築工事 | 増築、改築、移転、大規模の修繕・模様替 | ||||
避難施設等に関係する | 避難施設等に関係ない | ||||
法6条 1項 | 一号 | 別表1の建築物 (200㎡以上) | 使用制限あり | 使用制限あり (※倉庫等を除く) (※軽易な工事を除く) | 使用制限なし |
二号 | 木造 (3階以上または500㎡以上など) | 使用制限あり | 使用制限あり (※戸建住宅、倉庫等を除く) (※軽易な工事を除く) | 使用制限なし | |
三号 | 鉄骨増 (2階以上または200㎡以上など) | 使用制限あり | 使用制限あり (※戸建住宅、倉庫等を除く) (※軽易な工事を除く) | 使用制限なし | |
四号 | 上記以外の建築物 (都市計画区域内) | 使用制限なし | 使用制限なし | 使用制限なし | |
その他 | 上記以外の建築物 (都市計画区域外) | 使用制限なし | 使用制限なし | 使用制限なし |
表で見るべきポイントは以下のとおりです。
一号~三号建築物の「新築」は必ず使用制限あり
法7条の6でいう「新築」は棟別で判断します。よって、敷地内で別棟増築(棟で見ると新築)の場合、既設建築物に法的な使用制限はないので、施工者等の管理レベルで運用上問題が無ければOKです。
また、何となく戸建住宅であれば使用制限はかからなそうですが、大手ハウスメーカーに代表される鉄骨2階建ての住宅は三号建築物にあたり使用制限があるので注意が必要です。

へーベル○ウス、セキ○イハイム、ダイ○ハウスなどで建てる鉄骨2階建ての住宅は三号建築物にあたるため、検査済証が交付されるまで家具等の搬入は法的にNGです。意外に通報やパトロールで発覚することがあります。
一号~三号建築物の「避難施設等に関する増築等の工事」は原則使用制限あり
注意すべきは、そもそも「共同住宅以外の住宅」と「居室が無い建築物」については増築等の工事に係る使用制限からは除外されます。よって、鉄骨2階建ての戸建住宅や倉庫であっても、新築でない限りは使用制限がかかりません。
重要なのは「避難施設等」というキーワードです。厳密には政令(令13条)で定義されていますが、イメージ的には政令第5章に規定される廊下、階段、出入口、バルコニー、排煙設備、非常用照明などをイメージしておけばOKです。
建築基準法施行令第13条(避難施設等の範囲)
法第7条の6第1項の政令で定める避難施設、消火設備、排煙設備、非常用の照明装置、非常用の昇降機又は防火区画(以下この条及び次条において「避難施設等」という。)は、次に掲げるもの(当該工事に係る避難施設等がないものとした場合に第102条、第5章第2節から第4節まで、第128条の3、第129条の13の3又は消防法施行令(昭和36年政令第37号)第12条から第15条までの規定による技術的基準に適合している建築物に係る当該避難施設等を除く。)とする。
一 避難階(直接地上へ通ずる出入口のある階をいう。以下同じ。)以外の階にあつては居室から第120条又は第121条の直通階段に、避難階にあつては階段又は居室から屋外への出口に通ずる出入口及び廊下その他の通路
二 第118条の客席からの出口の戸、第120条又は第121条の直通階段、同条第3項ただし書の避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの、第125条の屋外への出口及び第126条第2項の屋上広場
三 第128条の3第1項の地下街の各構えが接する地下道及び同条第4項の地下道への出入口
四 スプリンクラー設備、水噴霧消火設備又は泡消火設備で自動式のもの
五 第126条の2第1項の排煙設備
六 第126条の4の非常用の照明装置
七 第129条の13の3の非常用の昇降機
八 第112条(第128条の3第5項において準用する場合を含む。)又は第128条の3第2項若しくは第3項の防火区画
ちなみに、この「避難施設等」に関する工事であっても令13条の2で軽易な工事とされるものは使用制限がかかりません。そりゃそうでしょ、という工事内容ですね。
・バルコニーの手摺の塗装の工事
・出入口又は屋外への出入口のとに用いるガラスの取替えの工事
・非常用の照明装置に用いる照明カバーの取替えの工事

またもやそもそも論ですが、工事自体が増築・改築・移転・大規模な修繕・大規模な模様替にあたるかどうかもポイントになります。普通の改修工事で床面積が増えない内容であれば、法的に使用制限はかかりません。現場の運用レベルでの対応になります。
四号建築物はいかなる場合でも使用制限はかからない
四号建築物に係る工事は、そもそも法7条の6に出てこないので使用制限がありません。
よって、一般的な木造の戸建て住宅であれば、完了検査前に家具等を搬入したり使用するのは法的にNGではありません。が、完了検査の支障となるような使用方法では検査済証が下りませんから注意しましょう。

使用制限が無くとも、完了検査は必ず受けましょう。検査済証の無い建築物はその後の増築だけでなく、フラット35や住宅ローンの借り換えなど融資関係で問題となります。
仮使用認定を受ければ使用制限は解除できる
さて、工事中の使用制限を規定する法7条の6ですが、そのただし書き各号により認定を受けた場合には制限が解除されます。この認定制度のことを「仮使用認定制度」といいます。
ただし、手数料が高いため小規模建築物で手軽に受けるようなメリットはあまりありません。(十数万円くらい)たいていは福祉施設や病院の増築、複合施設の部分的なオープンなど、中~大規模建築物の一部を利用しながら工事を進めたい場合に活用される制度です。
平成27年までは「仮使用承認制度」という名称で特定行政庁のみの扱いでしたが、法改正により「仮使用認定制度」として指定確認検査機関でも認定を下せるようになりました。
詳しくは↓の記事をご参照ください。
仮使用認定の話になると告示を参照する必要があるので、法令集は青本が良いと思います。条文のすぐ横に関連する政令・省令・告示を表示してくれているので便利です。
まとめ
工事中の使用制限の規定は、増築工事中に営業していたデパートの火災という重大事故を受けて、昭和52年に創設されたもので、避難施設等が未完成のまま不特定多数の者が利用する建築物の使用を禁止することが目的です。
・工事中の使用制限の根拠は法7条の6がすべて
・一号~三号建築物の新築(棟単位)は必ず使用制限がかかる
・一号~三号建築物で「避難施設等」に関する「増築や大規模の修繕等」を行う場合も原則使用制限がかかる
・四号建築物はいかなる場合でも使用制限なし
・使用制限がかかる建築物でも「仮使用認定」を受ければ使用はできる
また、消防法8条では、学校、病院、デパート等の防火対象物について消防計画の作成義務がありますが、この工事を行う際には工事中の状況に応じたものを作成するよう指導されているため、実務者としては消防機関への手続きにも注意を向けてください。